H7N9型鳥インフルエンザ

〜潜在的な発生が長期間あったと思われる中国の鶏〜
(産業に与える消費減退の打撃)

H7N9型のウイルスによる鳥インフルエンザが中国で発生、さらに人への感染で4月11日現在で38人発病、そのうち10名もの命が奪われた報道に、私はあまり驚きませんでした。

この比較的弱いウイルスでも、中国国内のあちこちの鶏に、長いこと感染に感染を繰り返せば、ウイルスも強くなり形も変わり、やがて大きな問題を引き起こすだろうと想像していた通りになったからです。

そのような私の想像では、このウイルスは昨日今日に鶏に感染したのではなく、潜在的に長期間感染を繰り返していた鳥インフルエンザだと思っています。

4年ほど前になりますか、畜産関係の用事で上海を訪問したとき、ある養鶏関係者から「あちこちの鶏に呼吸器病が発生し、成績が落ちて問題になっている。」との話を聞いて思わず「それは弱毒型の鳥インフルエンザではないか?」と問いただしたほどでした。

症状を聞きますと、伝染性気管支炎(IB)や、ニューカッスル病(ND)によく似た状態のようですが、IBもNDもほとんどの鶏に、ワクチンが接種され免疫があり、多くの鶏にそれからそれへと呼吸器症状と下痢は出ません。

鳥インフルエンザの弱毒型は、まったくIBやNDなどと似た症状ですから、とっさに鶏インフルエンザに違いないと私が判断したのは、今回の騒動を見て正しかったのではないかと思いました。

ただしこのウイルスがH7N9型とは思いませんでした。

東南アジアや台湾などで発生した弱毒型のH5N2のウイルスによる感染と決め込んでいました。

H5N2型は、発生を経験した台湾の関係者に聞きますと、伝染力は早いが症状は激しくなく、食欲と飲水の低下、産卵の低下、軽い呼吸器症状、軟便、緑黄色の下痢便、中には斃死する鶏もいますが、それほど多くなく、数日のうちに回復するので、鳥インフルエンザとは思わない養鶏業者もいると話していました。

ご存知のよう鳥インフルエンザのなかには、激しい症状を示す高病原性のウイルスH5N1型のインフルエンザがあります。

この症状は養鶏生産者なら誰でもがすぐに気がつく、餌も食べず水も飲まず元気喪失、産卵低下にはじまり数日のうちに、バタバタ死ぬ鶏が出て、その異常さを知り、家畜保健所に相談もしますので、感染の実態が政府当局も把握し、早急な対策も取れます。

数年前日本の各地に発生し、大きな被害を出したのがこのH5N1型のウイルスで、発生鶏はもとより、同一農場に生存している感染前の鶏まで、殺処分し焼却か地下に埋没されました。

そもそも強毒型にしろ弱毒にしろ法定伝染病で、国際間でもこの病気の発生は迅速に各国に報告し、発生国からの鳥類とその生産物の移動は禁止するくらいの恐ろしい伝染力の強い病気です。

ところがH5N1型は強毒ではっきり病状が分かるが、H5N2型やH7N9型は、鶏によく発生する呼吸器病のIB(伝染性気管支炎)、ND(ニューカッスル)、ILT(伝染性喉頭気管炎)、伝染性コリーザ(鼻カタール)、CRD(慢性呼吸器病)などと見間違うほど、症状は激しくないようです。

それゆえ善意に解釈すれば、中国の養鶏農場はH7N9型の鳥インフルエンザとは知らずに、生きた鳥をマーケットに持ち込んで販売したことになり、それを感染鶏とは知らずに密接に接触した人が運悪く呼吸循環系の細胞にウイルスを感染させ発病したことになります。

しかしながらこの弱いウイルスがなぜ人間の細胞に取り付きに感染するよう変形し、強毒型に変わったのかは分かりません。

ご存知の方も多いと思いますが、2003年ごろから現在まで、東南アジア、東アジア、西アジア、アフリカなどで、大発生したにH5N1型高病原性鳥インフルエンザは、不幸なことに600人以上が感染し、371人が死亡した事実があり、感染致死率の高い恐ろしさを教えましたが、これはすべて強毒ウイルスでした。

その時はH5N1型鳥インフルエンザは中国でも多数発生し、死亡者も出しています。

ですから中国でもH7N9型の発生と、そのウイルスによる感染で死亡した人は、今回が初めてではないかと思います。

このH7N9型鳥インフルエンザは、世界的に見ますと今回初めてお目にかかるのではなく、すでにヨーロッパやアメリカ、メキシコ、東南アジアでも過去に発生していますが、人への感染は聞いていません。

しかしそれにしても、弱いウイルスにしろ、鳥インフルエンザが知らないうちにこれほど蔓延していたことを、中国当局が察知していなかったとは、政府の家畜衛生防疫機関の怠慢といわれても仕方ないことです。

あるいは油断かもしれません。

というのも中国政府は、過去に多大な被害を出した高病原性のHH5N1型ウイルスを防御するワクチンを開発、全ての鶏に接種、インフルエンザ発生と流行をくいとめる対策がなされていますので、安心もあったかもしれません。

さらに前に述べたよう、発病していた養鶏場は、ほかの呼吸器病と思って報告しなかったか、または報告すると全て殺処分され、法定伝染病としてその周囲にいる健康的な鶏まで処分の対象となるので、それを恐れて内緒にしていたかです。

中国は国も広いし、飼育されている鶏の数も採卵鶏で10億羽以上、ブロイラーでは年間150億を越えますし、それに加えてアヒル、ガチョウの水禽類、ウズラ、食用鳩など、各地に分散して飼育され、その数を集計すると、世界でもっとも大きな鳥類の飼育国です。

実際その飼育数は、完全に把握できないと思います。

その理由は専業養鶏場で飼育されいる鶏は、調査報告が出来やすく統計数字に載りますが、それ以外の農家の庭先で10羽20羽と放し飼いにされている鶏やアヒルなど、政府発表の数字にはなかなか計上されません。

また今回問題になった愛玩用のレース鳩、あるいは小鳥類など、鳥類と名のつく動物の総飼育数は、想像するに圧倒的に世界一となります。

それに加え、山野や市街地、農村地区に生息する野鳥、また日本や韓国、さらに台湾、東南アジア、ロシアなどと往復している渡り鳥は、中国の西域にある青海湖が集合場所で根城です。

そこでウイルスを感染しあって、中国各地を経由してアジア諸国に飛揚していますが、その数は分かりません。

これら野鳥や渡り鳥など全ての防疫は不可能で、中国政府の防疫体制の限界を超えたもので、人工的にはコントロールできなでしょう。

そんな関係で、日本の養鶏関係者は、世界でもっとも鳥インフルエンザの危険地帯が中国との認識が強いです。

まして、そこから飛来する渡り鳥が、もしウイルスに感染していたとしたら、日本国中どの地域も地区も全て危険地帯となり、そんな見えないウイルスに晒されている日本が、神経質になるのもやむを得ません。

さらに心配していることは、中国政府の対応の遅さです。

今回も人への感染があり、かつ死亡者が出たので発表に踏み切らざるを得ませんでしたが、もし人への感染がなければ、鳥インフルエンザが各地で発生していると、薄々気がついていても、積極的に発表しなかったのではないかと疑います。

中国はご案内の通り面子(めんつ)の国、あまり国の恥部を見せず、かっこよいところばかり喧伝する性癖があります。

以前SARS(サーズ 特異性急性肺炎)の発生のときも、発表が遅れ、国内はもとより、各国に伝播してしまった過去があります。

まして、国境もなく地域の境界線もに関係ない、海を越え山を越えて飛行する鳥類、ことに渡り鳥などを視野に入れたら、一国の面子にこだわらず、防疫体制を超越した正義感と道徳観を持ってもらわなければいけないでしょう。

ところで心配なのは、中国からの発表が、人間への感染と死亡者のニュースが伝えられだけで、肝心の鶏のインフルエンザの発生状況と、その後の処置がどうなっているのか分からないことです。

まして、季節風に乗って飛んでくる黄砂が激しくなる時期、その砂の中にウイルスが混在しているとは思いたくないが、病原菌などはどんな隙間でも見つけて、繁殖しようとする性質があるだけに油断が出来ません。

私たちとしては、人間への感染も気をつけなければいけませんが、それ以上に鳥インフルエンザで再度日本の養鶏産業が危殆にに貧することだけは避けたいと思います。

畜産関係団体も、畜産、養鶏に使用する、中国から輸入される機材や飼料などには、充分気をつけ消毒など徹底するよう示唆しています。

いま中国で発生しているのは、鳥インフルエンザだけでなく、牛豚に強度に感染する口蹄疫の発生も報告されていますので、畜産業者はただ安いからと言うだけで、無思慮に中国物を使用するのは、本当に気をつけましょう。

もっともこの鳥インフルエンザによる影響は、中国国内でも大パニックを引き起こしているようです。

人への感染が伝えられ死者が出ているニュースは、中国国民に衝撃を与え、鶏卵、鶏肉の消費が急激に減退していると聞きます。

ことに上海市場では、生鳥の取引停止に始まり、鶏肉相場は乱れに乱れ、価格は暴落、最盛期の10分の1にまで取引量が落ち込んだようです。

鶏卵も同じよう、消費離れで半値以下に価格は下がったが、それでも売れない、こんな状態が継続しますと、多くの生産組織や生産農家が倒産、離散するのではないかと危惧します。

ところで、鶏肉にしろ鶏卵にしろ加熱調理すれば、ウイルスの心配は全然なく、またそのことが分かっていても、インフルエンザ感染の恐ろしさの心的な恐怖には勝てないのでしょう。

それほどいまの消費者は、何処の国の人も同じよう、付和雷同的で神経質で敏感です。

日本でも2005年に起った鳥インフルエンザ発生での卵と鶏肉離れを私たちは経験しています。

BSE(狂牛病)発生での牛肉離れ、口蹄疫での豚肉離れ、放射能での福島産農産物離れなど、その瞬間過剰な反応で消費が停滞します、病気発生の打撃以上に消費減退での相場低迷が、生産者の意欲に打撃を与えます。

しかしそうは言うものの、鳥インフルエンザウイルスの人への感染が事実としてある以上、それを防ぐ消極的な対応として、人々は鶏肉鶏卵を食べないという行動になるのでしょう。

そんな目に見えないウイルスとの対抗策は、まず感染しない方法と、感染しても発病しない強い免疫力を、体に持たせることでしょう。

人間はもとより、本家本元の鶏そのものに、インフルエンザを感染発病させない方法はもっともっと大切です。

そのいくつかの対策と試案を、お互いに考えましょう。その方法は次回に譲ります。