カンピロバクター菌食中毒

〜死亡者発生が多い欧米のサルモネラとカンピロバクター食中毒〜
(対策がないまま感染鶏だけが増える現状)

今回は食中毒を起こすバクテリア(有害菌)のカンピロバクターを中心にお話ししましょう。

カンピロバクター菌の名前を知っている人は、医学関係や畜産関係者以外の人では少ないと思います。

ところが、いま日本で発生する食中毒の病原菌の中で、もっとも発生数が多いのが、このカンピロバクター有害菌によるものです。

その他畜産由来の有害菌でよく耳にするのが、サルモネラ、病原性大腸菌O-157、リステリア、黄色ブドウ状菌などです。

多くが畜産動物の腸内に感染し増殖し、その菌が生の鶏肉、豚肉、牛肉、卵などに付着し、また汚染したりして、食物と一緒人間の腸の中に取り入れられ、腸内で菌が増殖し腹痛、下痢や嘔吐、発熱など引き起こす困ったバクテリアです。

私は毎度お話しするよう、畜産業に携わる仕事を約58年ぐらい続け、現在も継続中ですので、畜肉や鶏肉、卵からの食中毒のレポートは、内部告発みたいなもので、気が引けます。

ことに養鶏は自分の養鶏場の経営を皮切りに、種鶏、原種鶏農場運営、日本や諸外国の養鶏場や鶏肉生産組織の経営指導、コンサルタントの仕事を、長期間従事していただけに、鶏卵や鶏肉に食中毒の菌の危険性があると報告するのは、自分自身を責めているようでつらいことです。

ところが残念なことに、動物に感染する菌で動物には発病の危険がないが、こと人間に感染すると中毒症状を表す菌が実際多いことです。

皆さんは牛の生レバーや生肉を食べ、食中毒菌の病原性大腸菌のO-157やO-111に感染し、それを食べた人が残念ながら他界されたニュースの記憶があると思いますが、この菌なども牛には特別な症状が出ませんが、人の腸内に入ると、腸管に急激な病状を起こさせます。

とても怖い菌の大腸菌O157での中毒発生件数は、動物からの由来菌の中では件数が少なく、圧倒的に多いのはサルモネラ菌とカンピロバクター菌による中毒発生率です。

そのなかで、カンピロバクター(Campylobacter)による中毒が、ここ数年急激に増加していることが心配になります。

このカンピロバクターは牛、豚から犬や猫にも感染し保菌動物になりますが、圧倒的に感染度が高いのは鶏です。

またこの菌に感染しても、ご多分に漏れず鶏には病状は出ず、人間だけが食中毒となり腸炎が発生します。

この被害は日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ諸国の発生数字を見ますと、日本よりかなり深刻なものがありますし、中毒発生患者数も死亡数も断然多いです。

ご承知のように、サルモネラ菌も厄介で、これも鶏由来の感染例が多く、欧米での感染数字とサルモネラ中毒発生数字は、世界の中では群を抜いています。

ちなみに、2012年のアメリカの統計を見ますと、サルモネラ感染者が百万人を超え、入院までした患者数は1万9000人、同じようカンピロバクターの感染は85万人、うち入院患者が8,400人で、サルモネラ感染がカンピロバクターをはるかにしのぎます。

恐ろしいことは、サルモネラで378名、カンピロバクターも76名の死亡者が統計数字に掲載されていることです。

またここ数年の傾向ではカンピロバクターの増加率はサルモネラを凌駕しています。

イギリスのデータを見ますと2007年度ですが、動物由来の食中毒が46万人の発生、入院者数は2万2000人、死者は110名ということです。

そのうちカンピロバクターが77%、サルモネラは21%、O-157が1.4%で、アメリカと比較してカンピロバクターが圧倒的です。

ところで、日本の中毒発生の数字をここ5年間の平均で見ますと、カンピロバクター患者が年平均で393名、サルモネラが年平均86名と欧米と比較して断然少ないです。

これは人種的に欧米人より日本人の腸管が強いのか、症状が出たらすぐ病院に行く欧米人と、腹痛や下痢などでは病院に行かず、売薬で対応している人が多いので、日本の厚労省に届けられた発生件数が少ないのかわかりませんが、感染元の鶏のカンピロバクター感染数にそれほどの相違がなく、危険がいっぱいな日本の現状を知るだけに不思議です。

この傾向は同じ東洋人の韓国、中国での発生件数は、さらに日本より少ないことを見ますと、病状発生者の申告が少ないと見たほうがよいかもしれません。

ということは、ある研究者の意見で、これらの中毒の腹痛や下痢、嘔吐などで自家治療している人が多いか、また病院でも単なる下痢として薬で対応し、届け出がないため、実際は発表された数字の30〜40倍の感染者がいることも想定されるとのことです。

さらに学校や老人ホームなど集団発生した場合、原因究明で食中毒が確認されますが、個人の腹痛、下痢、嘔吐などあまり原因を確認してないのではないでしょうか。

とみますと、実際はカンピロバクター感染者は1万2000人、サルモネラも2,700人ぐらいるのではないかと推定もできます。

幸いなことに、ここ数年サルモネラ、カンピロバクターでの死亡者は発生していませんが、今日現在の鶏(ブロイラー)に感染している率から言いますと、どの家庭でも感染の危険性はかなり高いです。

サルモネラ感染は多くが生卵が危険視されます。

それは過熱しない生卵かけご飯などが危険で、サルモネラもカンピロバクターも過熱調理すればすべて殺菌されます。

ただし、カンピロバクターに汚染された鶏肉の表面に接触した手指、調理器具が、サラダなどの生野菜調理などで菌が付着しますと、必然的にサラダからの感染の危険性があります。鶏肉は過熱しますから安全ですが、生野菜サラダは過熱しません、感染源になります。

残念なことに今スーパーなどで売られている鶏肉の、40〜60%ぐらいがカンピロバクターに汚染されているとの報告もあります。

実際私たち業界内での、ブロイラーの生鳥検査で、同じよう40〜50%の鶏に感染が認められ、食鶏処理場の屠体鶏肉からはそれを上回る汚染が確認されています。

ことに一日に何十万羽と処理する処理工場では、鶏の腸内にカンピロバクター菌やサルモネラ菌が感染していることのチェックは不可能で、逆に感染鶏の腸が破れ、正常鶏肉が処理場の処理過程で汚染することも考えられます。

この生肉のままではカンピロバクター菌の除去は大変難しく、本来ならば飼育段階の養鶏場でこの菌に感染させないことが大事です。

ところが前に述べたように、カンピロバクターもサルモネラも生きている鶏には症状が出ません。

成長率も死亡率も何の変化も見えない健康鳥です。

ですから養鶏場でも、いつどのように感染したか知らないで健康鳥で出荷します。

あとで糞便など分析しますと、病害菌が発見され困惑します。

もう一つ困ることは、このような中毒菌を抑制する薬品がありません。

もしあったとしても鶏肉や鶏卵に、薬品が残留する恐れがありますので使えません。

また日本の卵は、産卵期間中は一切薬品が使用できない、鶏肉も出荷一週間前からは薬品禁止の薬事法があり、食品の安全性と人間の影響を回避するため、厳しい掟が設定されています。

余談ですが、諸外国からの輸入肉や卵などの場合、日本のような厳しい法律があるのかどうか、またそれが実行されているかが疑問で、信用できない国もありますのでご用心。

さて、どうしたらカンピロバクターやサルモネラを防ぐかが問題になります。

私は以前、私たちが開発した「生菌剤サルトーゼ」の話を書きましたが、それが薬に代わりサルモネラやカンピロバクターの抑制剤になることを期待しています。

事実今より10年前ごろまで、汚染度が高かった鶏卵のサルモネラが目下減少していることに、サルトーゼが貢献もしています。

サルモネラ対策にも効果がありますが、実際サルトーゼが使用される目的は、鶏そのものに強いダメージを与える、あらゆる病気対策に簡便に使用できるからです。

原料が納豆菌、乳酸菌の仲間で、発酵させた培地(増殖飼料)は大豆が主体で、餌に混ぜても水で溶かして飲ませても、効果が出ますし、間違って大量に投与しても事故がなく、化学物質でないので、卵、肉にも残留しません。

病気はことに薬品使用禁止期間中に発生が多く、鶏の被害が倍加します、その時薬事法に抵触しないサルトーゼが使用され、最も高い効果があり、また安心安全が担保されますので、多くの養鶏場が使います。

カンピロバクター対策にも、サルトーゼを使用しているブロイラー農場グループがあり、サルトーゼを飼料に添加しない時は40%の鶏に感染していたものが、添加後は8%に減少した報告もあります。

ただしこれでも完璧ではありません。

カンピロバクターの菌は人間の腸管に100個から500個ぐらい入ると、発病する感染力の強い菌ですので、感染鶏もゼロにしなければいけません。

そこで、まだ発表は早いと思いますが、私たちのグループは、カンピロバクターゼロが可能な、新しい生菌剤(プロバイオティック)生産に挑戦しています。

これは世界が注目するでしょうし、近日中に朗報を発表できるよう頑張っています。

さてカンピロバクターとサルモネラの感染の、欧米諸国の状態をみますと、これから何の対策もないまま過ごしますと、この二つの病気の被害は、地球上あらゆるところで大きな問題になるでしょうし、日本でも抑制ができないままでいたら、中毒発生だけでなく死亡事故の発生する可能性を持っています。

これは畜産に携わる産業人として、看過すことができない問題です。

私の会社とグループ組織は、農産物から畜産物さらに人間の健康まで、薬に頼らず化学物質を使わない、食品開発をサポートと実行してきただけに、畜産物由来の食中毒が後を絶たないことが、残念でなりません。

本来は政府や行政組織が、中毒発生の危険性を除去しなくてはならないのかもしれませんが、私たちのような小さな組織も頑張って対応していることも記憶にとどめてください。