世界の食肉、鶏卵はどう変わるか(その2)

〜薬剤耐性菌対策は、抗生物質から生菌剤に〜
(薬を生産現場から追放する消費者パワー)

2015年3月4日、アメリカのハンバーガー大手の「マクドナルド」社が、抗生物質、抗菌剤使用の鶏肉は一切使用しないと発表し、ファストフード業界に大きな波紋を投げかけました。

その内容は、「今後2年間かけて、同社のアメリカ国内の14000店で販売するチキン商品の原料鶏肉は、飼養期間中全ての薬品を使用しない飼育を行ったものを使用する。」

というもので、単に残留薬品のない鶏肉とは一線を画す無薬チキンの採用で、新しい価値観を標榜した確固たる内容でした。

ブロイラー肉の薬品規制は、出荷1週間前の最終段階だけ薬品を投与しなければ、それ以前に薬品を多投しても、薬品の残留が無いとの想定で、販売可能の規定があります。

マクドナルドは初期から最終出荷までの全期間、一切薬を使わない完ぺきな無薬チキンを採用、同社に納入している生産組織のその旨を依頼したようです。

全ての薬品の中には、抗コクシジュウム薬の「イオノフォア抗生剤」のサリノマイシン、モネンシンなども含まれています。

「鶏を見たらコクシジュウムがいると思え」と言われるくらい、この原虫病は厄介な病気で、世界中全ての鶏がこの薬品の厄介になっています。

それまで使用しないとはものすごい決断です。

この決断した背景は、同じファストフードのメキシコフード店や鶏肉使用の新興店が、高価格だが無薬チキン使用で、販売が急激に伸びている現状に危機感を感じての採用と思われます。

当然「ケンタッキーフライドチキン」など、鶏肉専門店へもこの流れは波及すると思われますし、世界中に網羅されている、マクドナルドチェーン組織への影響も考えられます。

さてこのように、鶏肉はじめ豚肉、牛肉、鶏卵、牛乳などすべての畜産生産物への、抗生抗菌剤の使用と薬品残留が大きく問題視され始めました。

これは今始まったことではなく、1970年代から家畜への抗生剤多投は薬剤耐性菌(スーパー バグSuper bug)を作り、人間の病気治療に深刻な影響を及ぼすと問題になっていました。

アメリカのあるコンシューマーレポート(消費市場報告)の発表によりますと、アメリカのスーパーマーケットで売られている鶏肉の50%から、耐性菌スーパーバグが検出されているようです。

農商務省は畜産動物への抗生物質不使用を勧めますが、生産市場がそれを了解し実行する状態にいかないようです。

何故了解しないのか、それは病気の多発と経済性追求から来ています。

産業の大型化と機械化が、抗生物質を使用せざるを得ない飼育環境となり、病気発生に悩まされています。

さらにある種の抗生物質は、成長促進の経済効果目的に連続投与され、確かにその効果は認められているようですが、耐性菌造りの可能性は最も高くなります。

実際、アメリカで使用されている抗生物質の総数は、2012年の発表を見ますと畜産用で13540トン、そのうちの60%は成長促進剤としての使用です。

ちなみに人間用への使用量は3300トンですから、畜産用が断然多く、これが問題になる背景が想像できます。

日本の2012年抗生物質使用量は、畜産、水産両方合わせて1084トンで、成長促進目的より治療予防用の比率が高いです。

人間用は517トンですので、畜産用と人間用の比率は2対1で、アメリカの4対1の比率から見ると、薬品使用量は少ないですが、耐性菌問題はアメリカ同様深刻です。

さらに深刻なのは中国ではないか思います。

2011年の資料ですが、中国の抗生物質の生産量は合計で約21万トン、畜産への使用は10万トンでアメリカの7倍、この数字も脅威ですが、人間への使用が同じ10万トンを超える数字になるのはさらに脅威です。

人口一人当たり換算でアメリカの約8倍、日本の20倍にもなる容量が、直接人間に使用されている現実は、抗生物質依存の医療現場ということになり、畜肉の残留薬品の危険より、耐性菌が直接的にできやすい現状に驚きます。

このような残留薬と耐性菌の問題が、消費市場や医療機関などから、目に見えない圧力となって、食肉鶏卵生産現場にも押し寄せ、今回のタイのバンコクで開催された、VIVアジアの展示会の出展傾向にもそれが表れ、薬剤に代わって有機的素材のオンパレードでした。

代表的なのは

「生菌剤(probiotic)」
「酵素(enzyme)」
「有機酸(organic acid)」
「オリゴ糖、酵母細胞壁(prebiotic)」
「大豆高タンパク飼料、ペプチドタンパク(high protein、peptide protein)」
「機能性ハーブ(medicinal herb)」

など、畜産動物の病気対策と、健康管理を増進する特徴ある素材で、出展各社とも研究成果のエビデンスを裏付として説明をしていました。

私たちも、生菌と酵素を混合したプロバイオティック「サルトーゼ」を展示、参会者の関心を集めました。

さらに興味ある傾向は、発展途上国と言われる東南アジア、西アジア、中近東の諸国の畜産関連業者並びに生産者に、特別の関心を持たれたことです。

その一つは薬品耐性菌への配慮もありますが、さらに深刻な事実は、長期間使用を続けた結果、抗生物質が無効化し、病気の発生が抑えられない現実があります。

ことに養鶏のコクシジュウム、サルモネラ、大腸菌症、クロストリジューム、ブドウ菌症など腸管疾病の治療と、水産養殖のビブリオ菌などへの効能が無くなっているようです。

耐性菌は人間への影響が多く取りざたされてきましたが、畜産動物の細菌感染の治療のため、長期間使用したため、有害バクテリアはすっかり薬剤耐性ができて、鶏や家畜の病気治療が困難になってしまったようです。

実際に、西アジアの国々や中近東の或る国では、すでに「サルトーゼ」使用により、予防治療不可能であった腸内疾患を、見事に解決しはじめていました。

中近東のある国立大学の畜産研究室では、自費でサルトーゼの薬品的効果を試験するため、ブロイラー雛を使用し、抗コクシジュウム剤と、サルモネラ、クロストリジューム対策の抗生物質と、サルトーゼを比較しました。

この試験は、発育途中の21日目の雛に、コクシジュウム原虫、サルモネラ菌、クロストリジューム菌を強制感染させ、治療効果と死亡率、肥育率、飼料要求率の結果を測定した画期的な試験で、各病原菌に対する治療予防と、経済効果の両方を検知した素晴らしいテストでした。

さらに面白いのは、腸内細菌の変化データです。

ご存知のよう、人間も鶏も腸内の有用菌(善玉菌)が多く、有害菌(悪玉)が少ないことが、免疫力も強く健康なことには違いありません。

この腸内細菌が、サルトーゼ投与区の鶏糞1g中善玉菌の乳酸菌が20億個に対し、薬品投与区は同じ鶏糞1g中たったの200万個と少なく、その逆に悪玉菌は10倍以上と多いことが判明しました。

即ち抗生物質は病原菌を殺す目的で使いながら、実際は善玉菌を殺し腸内細菌叢のバランスを崩し、免疫力の弱い鶏を作り、それがため薬を投与し続けなければならない悪循環を作ります。

こんなことが、大学の研究室試験で証明されました。

その結果を踏まえても、サルトーゼは各種病気に対する予防治療効果が高く、さらに少ない餌で最も多くの肉を産出することが証明されました。

たまたまこの試験を実行した大学の、養鶏畜産飼育研究所の獣医学博士の教授が、この展示会に出席され、私どもの展示コーナーで「サルトーゼの素晴らしさは薬品を上回る」と、ご自身の研究試験の結果を参考に、来場者に力説していただいたことは非常に効果的でした。

もっとも全てのプロバイオティックがこのような機能があるとは思いません。

サルトーゼ独特の生菌の能力と特殊酵素の機能性が、有害菌を抑制し有益菌を増殖したのです。

さてこのような機能を持ったプロバイオティックはじめ、薬に代替する有機資材が出現したら、耐性菌の問題解決も前進するでしょうし、さらに安心して食べられる食肉、鶏卵になります。

そのうえ、鶏や豚や牛が飼育されている環境の改善が進めば、動物の健康も増進され、薬使用量も減少するでしょうし、家畜に対する本当のアニマルウエルフェア(動物福祉)が実現できるでしょう。

ただコストがその分上がり、家庭の支出が増えることを若干我慢していただくことを、消費者にお願いしこの項を終わります。