国際価格に勝てる豚肉生産へのチャレンジ

〜大型化と繁殖養豚と肥育養豚との分離〜
(産業の統括化と安心安全な肉生産で輸入豚に勝)

1、政府も進める農業の大型化

いま日本農業は大きな曲がり角に来ています。

農産物、畜産物、食糧品すべての自由化を前提にしたTPP交渉が締結されたら、好むと好まざるにかかわらず、日本の農産物、畜産物は国際価格との競争を強いられます。

この価格差に打ち勝つため、政府は農業改革に取り組もうとしています。

その第一が農業の大規模化です。

大規模にすることにより、作業の機械化と効率化、労働力の省力、流通の簡素化が可能になり、農産物の価格が引き下げることが可能で、コメを中心とした日本農業の再生ができるとの考えです。

たしかに大型化することにより、作業の効率化は図られますが、日本の農業には農地の集約化が難しい問題として存在します。

しかし、畜産業では施設の集約化で特別大きな土地を必要とせず、また土地を分散することも防疫上好ましく、広大な土地を必要としないで大型化が図られる、産業構造的な優位性があります。

さらに大型化することで生産コストが低下することが、統計的にも証明されているのが畜産業です。

事実「物価の優等生」と言われる鶏卵は、養鶏業者の努力と大型化、機械化により、国際価格と太刀打ちできる小売価格を確立しています。

この鶏卵生産業も、輸入穀物を使い飼料会社から高い飼料を買い、国際価格より2倍以上するワクチンと薬品を使い、高い水道光熱費と労働費で生産しながらも競争力があるのです。

大型化の実態を、農水省などの統計で見ますと、昭和40年(1965年)の数えきれない小規模養鶏が、2010年の養鶏場は大型化しその数値は、1996倍と飛躍的です。

生産農家が2000分の1に減少し、大型化した農場がその羽数を集約したことになります。

ちなみに、大型化がなかなかできなかったコメ生産は、同じ45年間の間にたったの1.9倍にしかなっていませんので生産コストが下がらないのです。

同じように養豚も598倍の大型化がなされていますが、採卵養鶏ほど衝撃的ではありません。

乳牛は34倍、肥育牛は32倍、ブロイラーは50倍ですが、昭和45年当時はブロイラー産業は創世期で、農家数も少なく、すぐにインテグレート化しましたので、倍率が少ないです。

その中で養豚は、鶏卵生産の業態と比較するとまだ大型化が足りないと見ますが、1970年代と比べたら、養豚家の数は100分の1近くまで減少してます。

それなのに気になるのは、おなじ肉生産のブロイラーとの生産コスト比較では大きく差がついていることです。
2. 畜産物の内外価格差

そこで畜産物すべての国際的な生産コストを調べ、日本の生産コストとの
価格差を対比しますと、豚肉生産コストがいかに高コストであるかが
わかります。
日本の生産コストと国際生産コスト平均の違い(生体1Kg)日本円換算

日本産原価   国際平均原価   内外価格差   倍率

鶏卵   168.1   143.68    24.42  1.17
鶏肉   190.5   150.4     40.10  1.27
豚肉   392.4   127.8    264.00  3.07
牛肉   852.8   615.8    237.00  1.38
米    206.0    61.0    140.5   3.37

なぜこれだけの価格差がつくのか調べないとわかりませんが、採卵養鶏は私の知る限り、世界の中でも生産者の努力により日本の養鶏は、生産性が最も優れた生産能力と評価されています。

また生産物そのものが、そのまま商品として流通する優位性があり、生産原価と販売価格に差がなく、生産から商品パックまで企業内で行う合理性があります。

ブロイラーはインテグレーター組織で、飼育の生産組織が契約生産で成り立ち、また屠場を持つことにより、生産原価に無駄がありません。

また、大型の生鳥を必要とする日本市場に合わせた生産性では、世界の中ではナンバーワンの技術力です。

それに比較して養豚業は、生産効率が悪いのか、種豚含め生産材が高すぎるのか、養豚家の利益が大きいからなのかは分かりませんが、生産原価が高いです。

私は韓国の畜産とは長期にわたって関係し、豚肉、鶏肉の生産原価を調べたことがあり、参考にしますと、2000頭肥育豚生産規模の農場で、生体1キロの原価は235円前後です。

日本の392円と比較して150円以上安いです。

飼料原料は日本と同じ輸入品ですし、薬品、ワクチンなども外国ブランドです。

確かに人件費の違いがありますが、飼料費が日本の233円に対し151円、繁殖費(子豚)が15円に対し5円と3分の1です。

何か産業の構造的な違いがあるのか、大型化が図られていないのか考えさせられます。

日本の原価計算の統計数字は、コスト高の弱小養豚家も入るので、平均値が高くなるきらいがあるのかもしれません。

実際企業化した大型養豚業の原価だけを集めれば、韓国より低いのかもしれません。
3. 競争力ある産業構造

前置きはそれくらいにして、この高い原価を引き下げる具体論を考えましょう。

畜産経営で生産原価を下げて利益を確保する単純な思考は大きく分けて三つです。

1)少ない餌と薬で、早く大きく育て出荷すること。
2)生産の大型化と機械化により、労働生産性を上げる。
3)餌や薬などの生産材をできるだけ安く買うこと。

生産性を上げる方法の一つが飼養頭数を増やす大型化と、衛生対策と飼養環境を高める豚舎の近代化、飼育作業の簡素化と機械化による労働の省力化などですが、もっと検討したいのは、生産組織の統合化と繁殖養豚と肥育養豚の分離などでしょう。

これは組織的、構造的な産業の変革で、今までの繁殖、肥育を同一企業で行う一貫経営とは異なるものです。

同時にこれはインテグレートされた統合組織化が必然で、それを行える企業体が出なければならず、そんな企業は限られるかもしれません。

それを行い得る企業を考察しますと、商社資本をバックとした飼料会社、食肉販売とハムソーセージなどの加工組織、大型農協、実績のある大型化した既存養豚家、などが考えられます。

その組織は餌の供給から、子豚生産、屠場まで同じ組織が行い、生産材の実質コストを引き下げ、流通の無駄を省き大量販売でのスケールメリットを狙うものです。

生産材コストの中で飼料費が占める割合はダントツです。

この価格を安くするのは、飼料メーカーが農場経営をするか、大型の養豚場が自前の飼料プラントを持つことです。

すなわち飼料から繁殖農場、肥育農場、屠場を同一組織の中に統括することで、無駄な流通マージンをスキップすることです。

その中で最も難しいのが子豚生産の繁殖業務の独立です。

前回も触れましたが、繁殖業務は優秀な豚の遺伝的改良から始まって、系統的に生産効率がよい、肉質の安定した、標準化した子豚を、年間を通して平均的に大量生産する、高度の技術を必要とする組織で、養豚産業の成否を決める業務です。

母豚から1頭でも多くの子豚を生産し、その子豚を死亡させないで25キロ前後の体重まで健康に育てれば、肥育の成績はきまります。

その条件を担うには、母豚と種雄の繁殖能力を極限まで発揮させ、無駄のない妊娠出産管理を行い、衛生対策を万全に胎児と子豚の病原菌フリーの管理が大切です。

また1母豚あたり1年間に30頭、少なくても27頭ぐらいの離乳豚を生産し、現在の一貫経営企業体の原価よりかなり安いコストで生産し、肥育専門インテグレーター養豚場に販売することでしょう。

当然、繁殖方法はコスト引き下げと、優秀系統増産が可能な人工授精がすべてで、適正な発情チェックから精液注入まで、経験ある作業員または優秀な器具の開発などで、1母豚13頭〜15頭出産の標準化が可能になります。

母豚の改良により乳房の数を増やすか、人工保育の方法を確立するでしょう。

またハイブリッド育種手法で子豚生産数の飛躍的増加に取り組むことも業務となりましょう。

このような繁殖農場部門が独立し、母豚数で5万、10万それ以上の規模の大型繁殖会社を作り、それが成り立つことが養豚経営の改革かもしれません。

勿論一貫経営組織体でも、繁殖と肥育は別農場、別勘定として、それぞれの部門の原価引き下げを図ることが大切です。

何れにしろ、日本人の優秀な技術と開発力が発揮できるのは、繁殖部門でこの繁殖部門の生産性の向上が日米間のコストを縮める最大のポイントだと思います。
4. 養豚業の将来像

大型化は新しい農場の建設だけでなく、今まで小規模、中規模で生産していた既存養豚場の集約化も当然起こり得ます。

価格競争の狭間の中で、経営的に立ち行かぬ養豚家も出るでしょうし、後継者の問題、公害問題、生体販売問題など、解決ができず廃業せざる農場の肩代わりも起こり、そんな時代の流れの中で、養豚産業は大型資本の中に必然的に統括されそうです。

既存の養豚場は、土地、建物、生産設備と機器、糞尿処理、などそのまま使用できる条件が備わり、そのまま稼働できる優位性があります。

すなわち、大型組織の委託契約農場となることで、既存農場の生き残りが図れ、生計が安定するかもしれません。

ブロイラー産業の委託契約生産農場の形です。

ことに肥育専門の委託ですと、オールイン・オールアウト方式が望ましく、場内に1頭の豚もいない期間を設けることが、衛生上重要な条件で、病気対策の最善法となります。

ご存知のよう、日本で販売されている動物薬品の使用量は養豚が抜きんでています。

繁殖部門と肥育部門の別組織化と、肥育部門のオールイン・オールアウト化が進めば、本質的な病気対策が成功し、輸入豚肉より優れた「安心安全」な豚肉を適正価格で消費者に届けられます。

その目的のために私たちは、子豚の生産を増やせる、精液の希釈液を製造し使いやすい価格で提供して、生まれた子豚の健全な発育と病気感染対策のため、薬ではない代替物の生菌剤を紹介しています。

すべて生産原価引き下げと、安心安全な豚肉生産で、輸入豚肉に負けない日本産生産に協力したいと思います。