エコノミークラス症候群

〜血栓症予防のための機内散歩〜
(充分な水分補給と足腰の運動)

「エコノミークラス症候群」この言葉は、以前かなり話題になった言葉です。

エコノミークラスと聞けば、航空機内の安くて狭い座席を連想します。

その狭い座席に、身動きできぬ状態で、長時間座っていますと、到着した空港で飛行機から降りた瞬間、急に呼吸困難、胸痛、冷や汗が出て場合によっては失神し、最悪死亡するケースもある症状を「エコノミークラス症候群」または「ロングフライト血栓症」と呼びます。

この長時間固定した座席では、足の運動も間々ならず、じっと動かないでいるため、血流の流れが悪くなり、足の静脈の中に血の塊が出来、その塊りが歩き始めたため動きだし、血流にのり肺動脈に到着、肺動脈を詰めらせ閉塞を起こし失神状態になる症状です。

医学的な呼称では、静脈にできた血の塊り血栓を「深部静脈血栓症」と言い、その血栓が肺動脈を詰まらせたことを「急性肺血栓塞栓症」と言います。

これらの症状は航空機のエコノミークラスだけに発生するのではなく、狭い場所で長時間体を動かさないと同じ現象を引き起こす危険もあります。

その意味では、エコノミ—クラスだけでなくビジネスクラスも同じです。

地震や津波で家を失い、仕方なく自家用車で生活していたため同じ症状が発生した話や、長時間運転をする運送トラックの運転手にも発生した話も聞きました。
足は最も心臓から遠い場所で、そこへ動脈で血液を送り、静脈を経由して心臓に戻ってきますが、大切なことは足の筋肉の働きです。

ことに足のふくらはぎ(腓腹筋)の筋肉が大切で、心臓に替わる第二のポンプ呼ばれ、圧縮と弛緩の運動の繰り返しで、引力に逆らって血液を心臓に戻します。

その筋肉が座ったままでいると活動が鈍く、押し上げる力が弱くなり血液が静脈内に停滞しますと、血栓が出来やすくなります。

もっともすべての人に血栓が出来るのではなく、血液が固まりやすい体質や、血液をサラサラにするタンパク質が不足しやすい人、悪性腫瘍などの危険因子がある人はできやすいです。

血栓症の経験のある人、下肢静脈瘤、エストラゲンホルモン治療の人、長期入院していた患者、感染症にかかってる人、また極度に乾燥する体質の人なども要注意です。

さらに肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧の慢性病、妊娠中や経口避妊薬使用も注意が必要ですし、また坐骨神経痛など腰の神経に異常があると、ふくらはぎが硬直しやすく問題になります。

それと高齢者もその中に入ります。

ところでご存知のよう、航空機内の空気圧は低く、体は膨張しようとします。

靴を脱いでリラックスし何時間か過ごすと、足が膨れて靴に納まりにくくなった経験の人もいるでしょう。

この気圧の変化が、血管にも影響します。

自律神経は膨張を抑えようとして、体を収縮する機能が働き、それが血管にも影響を及ぼし収縮しやすく、血流が悪くなります。

この体の反応は機内の低気圧だけでなく、気象の変化にも敏感に反応する体質があります。

低気圧が近ずくと頭痛や倦怠感など起こす人は、多く内耳のバランスが崩れることで起きます。

このように気圧に敏感な体質の人は、乗り物酔いにもなりやすいし、血管の収縮にも気を付ける必要もあるかもしれません。
さてこんな危険因子の人が「エコノミークラス症候群」の要注意者ですが、その中に高齢年齢と坐骨神経痛が入るのは85歳の私には気になります。

もっとも高齢になりますと、循環器の働きが劣化し動脈硬化はじめ、高コレステロールや高中性脂肪など、血液に問題が多く、全ての筋肉の量と運動力が劣ってきていますから、足の血管に血栓が出来やすいことになり、若い人より長距離、長時間の旅行は十分気をつけなければいけません。

その高齢者の私が2017年2月末、東京成田からインド洋にあるスリランカまで、航空機で往路9時間30分、復路時間8時間30分の長時間、狭いエコノミークラスの座席で旅行をしました。

これは私の檀家寺の主催で、スリランカの有名寺院との交流をより深めようとのツアーで、参加は10名ほどそのなかに僧侶が3名でした。

遅く申し込んだためエコノミークラスしか予約できず、長距離の航空機利用に少し心配もあり、また持病の坐骨神経痛も時々発症するので、参加を迷いましたが、友人たちに強く勧められ機中の人となりました。

ただし予約時に、通路側の席を確保し、トイレ利用名目で1時間に1回は機内通路を歩くこととしました。

とにかく、足を動かし股関節を柔らかく、ふくらはぎの筋肉に運動させ、血液の循環に支障の無いようにする計画です。

さて実際はどうかと申しますと。往路9時間30分の間に尿意に関係なく、7回ほどトイレ利用をしました。

時には使用中のために、いったんは席に戻り、再度トライしたことが3回ほどありましたので、機内の歩行は10回以上。

その都度歩くだけでなく、膝を折り曲げる屈伸運動や、体を前後左右に回す運動など、可能な限り足腰と背腹の筋肉を動かす運動を実行しましたので、神経痛の発症も少なく、足の筋肉も衰えず、スリランカ到着時でも歩行に問題を起こしませんでした。

また2回提供された機内食とアルコールのサービスも少なめに頂き、水やジュースのサービスは充分受けて、乾燥する機内の空気に対応し、血液が水不足にならぬよう心がけました。

それで水分過剰になりトイレ利用回数が多くなって、足の運度になったと思っています。

こんな心構えと努力が、エコノミークラス症候群のささやかな対策として、実行しました。

復路は夜行便、狭い空間での仮眠も少ししましたが、水分を補給し極力トイレ通いをして、体が硬直しないよう努め、無事成田空港に早朝帰還しました。

こんなささやかな努力が、エコノミークラス症候群の対策と思っていますが、こんな努力をしなくても大丈夫だったかもしれません。

しかし用心に越したことはありません。

これからも、仕事や観光で長時間フライトの外国旅行を行うと思います。

エコノミークラスだろうとビジネスクラスだろうと、気圧が変わり乾燥する狭い機内、血液の循環障害には十分気を付け、他の乗客に迷惑がかからないよう、機内運動をするつもりです。

さて、来週3月12日から1週間、タイのバンコクに仕事で出張します。

往路6時間、復路5時間30分、さてトイレに何回通うようになりますやら。