牛の生肉「ユッケ」食中毒事件

〜病原性大腸菌「O−111」が原因菌〜
(何処にもある中毒菌、自己責任で気をつけよう)

「ユッケ」と言う韓国の牛肉料理が有名になりました。

しかし残念なことに、有名になった訳が、この料理を食べた人が食中毒になり、毎日にようにテレビや新聞で報道されたので、この料理名が日本国中に知れ渡たったのです。

病状の発症は4月下旬、ある焼肉レストランチェーン店が提供していた、加熱しない生の牛肉のミンチ「ユッケ」を食べたお客に、激しい下痢と嘔吐の症状が発生、発表によります北陸と神奈川県など、約170名前後の人に発生、ついには小さな子供も含め、4人の犠牲者が出たので、大きなニュースとなったのです。

これは細菌性食中毒で、病原菌は病原性大腸菌O−111が患者の糞便から検出されました。

この大腸菌は昔からありましたが、中毒を起こすことは希でしたが、今回はどういうわけかベロ毒素による出血性腸炎となり、最後は溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症し死亡に至ってます。

たしか平成8年だと思いますが、大阪で起きた牛の糞便が原因と言われ、カイワレ大根から感染したとの風評が出た大腸菌O−157の事件と、同じ症状であることを思い出しました。

この大阪で問題を起こした、病原性大腸菌O−157も、同じベロ毒素が腸管に出血を起こし死亡原因といわれました。

この聞きなれない毒素名が大きな話題となり、その後もO−157の発症は散発的ですが発生し、この毒素で20名以上の犠牲者も出ていましたが、O−111と言う病原性大腸菌の事故は、今回初めて知りました。

ところで「ユッケ」料理は私には馴染みがあります。

しかし日本では食べたことはなく、全て韓国訪問時にご馳走になり、それなりにおいしい生肉料理との印象を持っていました。

韓国では「ユッへ」と聞こえる発音で、「ユ」は牛「へ」は生肉(魚の刺身も含む)の意味で、本来生食をあまりしない韓国料理の中では珍しい存在です。

赤身のミンチ牛肉に、生の卵黄を混ぜて食べる簡単な料理ですが、つける調味料がアラ塩であったり、ごま油だったり、やわらかいコチジャンなどの唐辛子味噌など、韓国風味のエスニックな味と記憶しています。

この牛肉の生食「ユッケ」は、日本人の食文化の中では抵抗なく取り入れられます。

生魚の刺身のおいしさに慣らされている舌には、牛さし、レバーさし、鳥さし、馬さし、鯨さしなど動物の肉の刺身は馴染み深く、専門レストランだけでなく、各家庭の食卓にも登ります。

ですから焼肉レストランで出される、牛肉のミンチ生肉には何の抵抗もなく、安心して食べたはずです。

その証拠に家族連れでみんな一緒に食べた結果、子供の中毒死が出てしまったのです。

ところでこの動物肉あるいは魚貝類、魚卵などの、生食原因で起きると食中毒発生の比率は、昭和30年代と比較して減少してきたと言うものの、現在でも年間2万人を越える発症者数で推移しています。

本来は食品の腐敗が進行しやすい夏場が多いはずですが、季節に関係なく発生しています。

そのたびに食中毒予防のガイドラインが発表され、綺麗好きで衛生観念の発達した日本人は、細菌汚染には敏感で神経質で対応も充分と思われがちですが、何処でも、食堂でも、家庭でも、給食センターでも、はたまた病院食にもその危険があります。

ことに食堂や給食センターなど、多くの人に食べられた有害性の中毒誘発物は、一人二人の少数でなく集団で発症が見られますから話題になります。

今回も韓国料理のチェーン店の各地支店から発生したので、広域性の食中毒事件となり騒がれました

これら食中毒菌に対して、食堂レストランはじめ、ホテル旅館、スーパーやデパートの食品売り場、給食センター、弁当家、惣菜やなど、不特定多数の顧客対象に料理食品を販売する企業は、ことに神経質です。

もしその企業の提供食品から中毒症状が発生したとすれば、衛生管理の状況にもよりますが、営業停止、患者への賠償責任はもとより、企業規模によっては、営業的に成り立たなく倒産の憂き目にも会います。

ことに病原性大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター、ビブリオ、ポツニルス、ブドウ状球菌、ノロウイルスなど、ほとんど動物生産物、水産物など養殖食材が原因になっているケースが目立ちます。

ことにそれが刺身はじめ生のまま食べたとき、感染が顕著に現れます。

たとえば、生魚の腸炎ビブリオ、鳥さしのカンピロバクター、牛さしの大腸菌、生卵のサルモネラ、生牡蠣のノロウイルス、などは病原菌がその食材に特徴的に汚染されている危険があります。

これらの中毒を防ぐには、加熱することが最も簡単なことですが、もっと大切なのは食材に細菌やウイルスが付着していないことです。

それを突き詰めますと、動物が飼育されている段階から、病原菌を腸内や内臓、血液に繁殖させないことです。

これは簡単ではありません。

菌の中には抗生物質や抗菌剤で抑制することも可能な菌も多いですが、薬事法で薬剤が食品に残留することは規制されていますので、使えません。

またそれでなくとも薬剤使用の多さが問題になり、畜産業者も水産業者もできるだけ使用を控えますが、それゆえ病原菌の抑制がおろそかになりがちです。

困ったことに、これら人間の腸内で起こす中毒菌は、動物には発生しません、ほとんど症状がないので見逃します。

しかし卵や肉には菌の感染と付着が考えられます。この菌数が少ない場合は、人間の腸内でも問題を起こしませんが、菌が増殖した卵や肉を食べると、何らかの症状を引き起こします。

余談ですが私どもは、病原性細菌の繁殖を抑えるために、薬品ではない生菌飼料を開発し、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌の抑制に一役買っています。

有機的な鶏卵、畜肉生産の農場ではかなりの比率で使用していただいています。

日本だけでなく、抗生物質使用禁止が法律で決まった韓国へも、輸出しておりますし、他のアジア地区からも注目されています。

さて今回の中毒ですが、発生させた食堂経営者が「生肉を売ることを禁止されていたら事故はなかった」などの発言で話題を呼び、厚生労働省の監督と規制に問題があるかのような、意見も聞きますが、本来は当事者責任で、商品に対する衛生管理責任と思います。

もしやたら規制が多くなりますと、ますます難しい世の中になり、食べたいものも規制の対象だからだめだとか、生の刺身も熱湯を通さなければ食してはならないなどと、「羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)」愚かしさになることを心配します。

病原菌はどんなに注意をしても何処かにいますし、経口侵入を防ぐことは物理的に難しいですから、消費者もその点を理解し、自己責任で中毒を防ぐことが涵養です。

これから食中毒が多く発生する夏を迎えます、「なまもの」の大好きな日本人、皆さん充分に気をつけましょう。
2011年5月24日