食の安全と食品添加物(2)

〜新しい食の文化と多様性を作った食品添加物〜
(無添加商品を要望が底堅い消費者心理)

私が食品添加物と始めて出合ったのは、確か小学校入学前の頃でしょう。

もっともその品物が、食品添加物だとの認識はもちろんありません。

「これを味噌汁に入れると味が良くなるだよ」

それが食品添加物の代表「味の素」でした。

母親が小さな瓶のなかに入った白い粉の結晶を大事そうに私の味噌汁椀にパラパラと落としたことを記憶しています。

この「味の素」がタンパクアミノ酸のひとつ、グルタミン酸を原料にして作られ、大正末期に製品化されていると知ったのは、戦後しばらくたってからです。

さらにこの「味の素」が食品添加物の代表のひとつと知ったのは、さらに年を経過し、同じ食品添加物の合成甘味料「ズルチン」や「チクロ」が発癌性物質として使用禁止の処置がとられた、1960年の終わりごろです。

その時、いままで安くて重宝していた人口甘味料が、一夜にして毒物に変わったのですから驚いたと同時に、人工的に作った添加物の中に、かなり危険なものが多くあることが、社会的に論議の対象になったことも知りました。

同じ甘味料の仲間には砂糖が貴重品であった終戦後、甘さに飢えた人々を救った「サッカリン」も発癌の危険性がある物質と使用禁止処置がとられましたが、現在は再度許可になって使われていると聞きました。

しかし、アメリカ、カナダなどではいまだに使用禁止になっているようで、日本がなぜOKなのか分かりません。

もっともその逆に、諸外国で許可になっているのに、日本では使用禁止の添加物もたくさんあります。

そのように、安全性を最も重要視する食品添加物でも、国々よって許可基準と検査認定は違いがあり、国によってはかなり危ないと思われるものもあります。

こんなこともあって、添加物の功罪に関心と興味がわいてきたことも確かです。

昔から良く知った「味の素」も沢山摂りすぎると、頭痛や痺れ、呼吸困難など症状が現れる恐れが指摘され、化学調味料を多く使って、うまさを強調する中華料理が危険の槍玉に挙げられ、中華料理症候群などありがたくないレッテルが貼られたのは、そんな遠い昔の話ではありません。

ことに化学合成されたものは、素材の原料が石油や石炭などであることも多く、そんな物質を化学変化させて作ったものが本当に大丈夫なのか、一般消費者は疑いたくもなります。

それゆえ使用認可基準はかなり厳密を極めます。

天然素材を使った食品添加物も多くありますが、天然だから安心だはありません。

天然を活用した添加物に対しても、その安全基準と検査内容は厳しいものがあります。

まず安全性評価は、使われている化学物質の同定、規格の設定、純度、不純物の検出、実験動物など使用しての毒性検査、一日の摂取量の設定(ADI)、このADIを越えない使用基準の設定など、念入りです。

このような規則にのっとった安全テストは、研究室段階のテストで、市場に流通してからの使用量は、必ずしも規定通りかどうか分からないところがあるのではないか、そこが疑念の種です。

食品添加物に限ったことではないでしょうが、食べ物から来る人体への危害には消費者は敏感です。

農薬や抗生物質などの薬品の残留、ダイオキシン、カドニウム、水銀、鉛などの重金属、病原性バクテリアの汚染、遺伝子組み換え食品などにはことに神経質です。

食品添加物にしても、化学合成された薬品的働きをする抗菌剤、防カビ剤、抗酸化剤、漂白剤、発色剤、着色剤、香料、保存料などの中には、危険物質が隠れているのではないか、あるいは使用期間が長ければ異常が出るのではないか?との心配の向きも多いです。

いずれにしろ体に入れるものですし、本来食品ではなかった化学合成剤が、どのように反応するかは人それぞれの遺伝子(DNA)によって異なるでしょうが、まったく大丈夫と言い切れるかどうか、判断の分かれるところでしょう。

ことに添加剤で問題になる反応の第一番は、発ガン性とアレルギー発症で、それに加えて長期間使用による遺伝子への影響ですが、これは何代かにわたって検証が必要ですから、確定が難しいです。

同じことが染色体への影響で、遺伝子毒性や損傷と同じく、世代を超えて生殖細胞に変異を起こすことも心配されます、もしそれに影響されますと、添加物使用と少子化問題がシンクロされます。

その他、急性慢性の毒性反応は、過剰摂取、長期間使用などで表面化するかも分かりません。

台湾で問題になった、無許可の無水マレイン酸も、長期間の使用で腎臓障害を起こすことが検知されていますから、添加剤に認可されていませんでした。

無水マレイン酸だけでなく、腎臓、肝臓に危険があると思われる添加物には、ことに実名は挙げませんが、防カビ剤のいくつか、化学合成した香料の中にもあるようです。

発ガン性とアレルギー発症が疑われている添加物はそれより多く、ことに化学合成の香料や着色料あるいは酸化防止剤、防カビ剤など、細かく問題点を洗い出したら、キリがありません。

こんな食品添加物ですが、今日現在の私たちの食生活には、切っても切れない物質となっています。

ご存知のように、あらゆる食品のなかに添加物が使用されています。

前号で話題にしたコンビ二弁当にしても、10種類前後の添加物が入っていました。

家庭で調理する食材から調味料や食用油、ハム、ソーセージ、チクワやカマボコ、魚の干物や加工品、固形カレールウ、パンや麺類、豆腐から油揚げ、菓子類から飲料、酒からビールワインまで、これら添加物のおかげで、商品イメージが定着しているものもかなりあります。

それぞれの食材にどんな添加物が入っているかの詳細は省きますが、長期保存や酸化を防ぐためには、農産物生鮮素材にも添加物を使う場合があります。

ことに輸入食材の果実、野菜、肉類、魚類、乳製品などは、場合により日本では認可されてない添加物が使用され、問題を提起したケースが過去にかなりありました。

それに関連して考えさせられるのは、自由貿易協定が話題のTPPです。

もし締結されたとしたら、たちまち食料も加工食品もフリータックスで、日本の市場に殺到するでしょうが、それが問題になってしまいます。

自由貿易の長所と弊害の論議はいろいろありますが、そのなかで食品添加物の国よる認可基準の相違は深刻です。

ちなみにアメリカのFDA(食品薬品局)が認可している食品添加物は600種類、同じFDAがGRAS(一般に安全と認められる食品)の規定で認可されているものも1000種類あります。

日本が認可しているものは352品目、アメリカは日本の倍近い添加物が認可され、加えて安全と証明されているものまで含めると、1000種類になってしまいます。

もしTPPが発足されれば、これら日本では認められていない食品添加物使用食品の、安全基準のすり合わせは、かなり微妙な関係を作ります。

ことに食の安全は、国民の健康の健全化と相対する問題ですから、自由化の定義は別物としても、軽々に基準の変更は国民の同意を得られませんし、不利益となります。

話題の中国からの農作物や畜産物の食品については、2005年から発足した日本のポジティブリスト制度の基準にそって、農薬、動物薬、食品添加物の基準設定項目の797品目をクリアーしなければならず、この基準はかなり厳しく、中国政府が問題無いとしたものでも、安易に日本の市場には出回りません。

ちなみに中国は、訳の分からない添加物を含め、2200種類が使用されているようですが、そのうち60%以上は安全基準が設定されて無いものを含んでいると聞きます。

なぜならば、中国にしても2200種類の添加物は食品製造者が作ったものではなく、食品の付加価値を高める、長期間保存も出来る、飲食店の味や見た目を簡単に高められ、商売がやりやすくなると言う目的で、化学会社や食品関連業者が開発したものです。

その原料や、触媒後の化学合成物が、どのように人体に影響するかの検証はどうしても後回しになります。

市場の要求と添加物製造業者の利潤追求が優先するので、後で問題が発生します。

日本やアメリカはじめ、科学技術が発達した国々も、有機化学を専門としている会社が、食品をターゲットにいろいろな用途の添加物製品を開発したことは確かです。

ただ少し違うところは、その物質が安全かどうかの科学的検証をしっかり行い、動物実験から場合によっては人体へのリアクションまで検査し、政府の責任において、使用できるか出来ないかを判断していることです。

といってそれが絶対安全とはいえません。

過去にも一度許可された物質が、危険性が発見され、取り消しになった事件がいくつもあります。

そのように安全性に対する基準は、国の威信にもかかわりますから慎重です。

その安全性基準を満たした食品添加物が、食の多様化と食の文化を変えました。

またその流れが驚くほど多くの食品加工の開発を生み、また食糧、食品の国際化と貿易量の拡大をもたらしました。

そんな食品添加物も、いまだに消費者の間では胡散臭い物質とみなされている傾向は強いです。

「食品添加物一切使用なし」「無添加食品」「化学物質はいっさい使いません」との宣伝広告を良く見ますし、食品加工品にも無添加をうたうものがかなり見受けられます。

食品添加物を使用しないことが、商売になり付加価値となるのも面白い現象で、そもそも添加物は、付加価値をつける目的で作られたものが多いはずなのに、それが逆になるとは皮肉な話です。

消費者の食品選択の基準を、あるアンケートで見ますと、賞味期限のチェックが47.7%と1位ですが、それに続いて原材料名、産地明記があり4番目に無添加無着色が40.9%と高いです。

無農薬、無薬品、遺伝子組み換えがその後となりますので、添加物を使用しない食品希望は強いことになります。

このように無添加食品を消費者は望んでいるようにアンケートは語りますが、いまマーケットで食品選択をする場合、添加物を使用していないものを選ぶほうが難しいく、あえて言えば無理なのではないかと思います。

それほどまでに食品添加物は、私たちの食生活の中には知らないうちに浸透し、言い方を換えれば、すっかり慣らされてしまった、また旨みも甘味も風味も歯ざわりも、さらに色も光沢も形状までも人工的な添加物によって作られていることに、多くの人が抵抗がなくなってしまったと言えます。

ただし安全性が担保されているからと言って、野放図に使用してよいものではなく、節度ある使用を関係者にお願いすることで、消費者の一人の意見として終わります。