高齢者の熱中症

〜死亡率の高い高齢者の肉体機能低下〜

(昨年の医療機関で手当てを受けた数40万人超え)

 

暑い夏になりました。

豪雨を伴った梅雨も明け本格的な夏、今年の夏は冷夏かもと言っていた気象庁も、
猛暑になる恐れありと訂正しています。

この項を書いている7月24日の東京の日中の温度は35度、
今年も暑い夏の覚悟が必要です。

ところでその暑さに対応できず、体内温度が上昇し生命機能の恒常性が失われ、
命を落とす「熱中症」の人が多発し、それが大きなニュースとなります。

ことに昨年は近年の内では最も暑い夏で、熱中症の患者が続出し、
新聞紙面がその記事と対策でにぎわいました。

発表によりますと、医療機関で治療を受けた人が約40万人を超え、
そのうち65歳以上の高齢者の割合が45%と多く、ことに重症化しやすく、
熱中症死者550人中449人が70歳以上であったと言います。

私も正真正銘の高齢者の一人「熱中症で死亡の高齢者」の新聞記事は矢張り気になります。

それでなくとも最近は、暑さに対して抵抗力がなくなり、
暑さの中で行動していますと、知らずの内に体に負担がかかり、
疲れを強く感じるようになっています。

3,4年前までは冬の寒さより夏の暑さの方が好きな活動的肉体を誇っていたのですが、
80歳の坂を超えてからは、夏の暑さの方が肉体に対する消耗率が
高いことを直に感じるようになりました。

それなのにこの7月初旬から中旬にかけて、日本より暑い台湾とタイにたて
続けて10日間、仕事で訪問し暑い気温の中、汗をかきながらの巡回行動をして、
丈夫と思っていた体もさすがに疲れを覚えました。

こんな時、もっと無理をすると熱中症になるのか?、
旅行中いささか心配もしました。

そもそも熱中症とはどう言う病気なのでしょうか、
確かこんな言葉は私の子供の頃はなかったし、
また青年壮年時代の40年前以前はあまり耳にしませんでした。

真夏の太陽の下で運動や仕事をし、強い陽射しの中で暑さに耐えかねて倒れる
「日射病」とか「熱射病」といいましたが、
「熱中症」とはこれと少し違うのでしょうかね。

「日射病」とは文字通り、強い陽射しの中で作業や運動で発汗が激しく、
塩分を含む水分が不足し心臓に戻る血液量も不足し、心臓がバテて血液循環が悪くなり、
吐き気、めまい、意識不明となります。

「熱射病」も太陽の下だけでなく、高温多湿の条件の中作業や運動で大量の汗をかき、
やはり体内の水分塩分が不足し、体温調節ができなく虚脱感やめまい、
吐き気が症状としておきます、原因は体内に熱がこもり恒常性が失われるからです。

これらの症状を発見したら、涼しい風通しにのよい日陰で休ませ、
首筋やわきの下など冷やし、また水分と塩分を補給すると回復も早まります。

「熱中症」とはこの日射病、熱射病も含んでいるようで、
さらに作業運動とは関係ない人でも、体内に熱がこもり代謝が不順となり、
恒常性を失い意識障害を起こす状態まで包括したもののようです。

ことに高齢者の熱中症の場合、必ずしも発汗作用を伴う運動や作業だけでなく、
締め切った室内で室温が上がり、結果体温が上がり熱中症になるケースもかなり多いと聞きます。

ことに一人暮らしの高齢者は、はたから注意したり見守る人がいないため、
我慢しているうちに意識障害になってしまい取り返しがつかない結果になるようです。

そんなことがあってか、高齢者の熱中症が余計気にもなりました。

ご存知と思いますが、私たちの体は熱(エネルギー)を交換する熱機関で、
体の恒常性を保ち活動させるため、食べ物からカロリーを摂取し、
それを体内で酸素を使って燃やし熱に変え、体外に放出して活動するエネルギー消費動物です。

それがため身体は一定の体温を保ちます。

それが36度から37度としますとそれが恒常的体温です。

その体温を一定に保つため、外気が熱くなると皮膚の血管は弛緩し、
血液の循環もよく、熱を放出するため発汗作用があります。

発汗で水分が不足すると、体は乾きを訴え水分を要求します。

それは体のセンサーが働いて、自動的に水分調節機能と熱放出機能が上手に作動し、
恒常性を保つための感応機能の働きで、身体の中心温度を下げるため、
皮膚に血液を多く循環させたり、汗をかいたりして気化熱を奪い、
体全体を恒常性体温い戻す働きをします。

水分が不足すれば、のどの渇きを覚え水を補給して、
体内の水分量も一定に保ちます。

これらの機能は間脳の視床下部にある自律神経や、
内分泌機関などが自動的に働く、巧妙な生命維持機能装置です。

ところで私たちの体の半分以上は、水分であることをご存知と思いますが、
年代によって水分量が違います。

ちなみに新生児は80%からの水分量で肌もみずみずしいです。

子供は65−70%ですからよく水分を取ります。

成人は60%ぐらいですが、
70歳を超えた高齢者の平均は50%台と少なくなります。

この恒常的な水分量の違いが、熱中症の発生多寡と重症度の違いとなり、
最後には死亡率の違いとなります。

ことに高齢者は、温度感知センサーが鈍く、
寒暖に対して鈍感で血液循環反応も鈍く、
また水分量が少ないので発汗量も少ないです。

さらに間脳の自律神経の働きも悪く、全ての感受性が鈍感で、
喉の渇きを覚える知覚感覚が鈍いので、水分補給の必要も感じにくくなってます。

こんな肉体的な機能性と感受性が落ちてきていますので、
夏も猛暑に対する対応が後手後手になってしまうのです。

そこで高齢者は、自分の肉体的条件の変化をまず知る必要があります。

わたしも高齢者の一人ですからよく認識していますが、
過去の経験で物の尺度や危険度を図る癖があります。

昔はもっと暑いときがあったが問題なかった。

運動で水を飲むとか汗が出すぎてかえって疲れる。

精神力があれば暑さやのどの渇きは乗り越えられた。

扇風機にあたると体調が崩れる。

クーラーは自然の涼しさでないから嫌いだ、体に毒だ。

少しぐらい暑くても我慢できた。

などなど、それはご本人が若い時の感覚で、
いまは高齢者になったことを忘れていることです。

まして肉体を防御するセンサーが鈍くなり、
体の水分量も少なくなっていることを知りません。

こんな高齢者が暑さを我慢している間に、
恒常性が失われ重篤な熱中症となるのです。

その結果昨年の例ですが、
死亡者550人中90%以上の499人が高齢者ということになります。

ことに直射日光の下での熱中症でなく、
日陰の自室の中での熱中症で亡くなっているようです。

外気温度が30度を超え、室温も30度以上になっていても、
クーラーも扇風機も使わず、また水を飲まずにいたため、
不帰の人になったケースが多いようです。

さてさてどうしたら、高齢者の熱中症を防げるかが大切です。

月並みの対策は、生活している居住環境の温度を下げ、体温を上げないことです。

そのために、風通しを良くし、クーラー・扇風機を適宜に使い、
熱を放散しやすい衣服を着用、水分補給をこまめにする。
水分は塩、砂糖など入れるか、スポーツドリンクなどもよい。

入浴で新陳代謝を促進させ、寝る前の水分補給、熱帯夜でしたらクーラーか扇風機で体を冷やす。

日中は直射日光の下での行動は出来るだけ避ける。

肌が露出した服装で直射日光に当たらない。

真夏のゴルフや運動や作業は控えた方がよい。

夏負けしないよう食事は必ず食べ、栄養に配慮。

睡眠は充分とる。

二日酔いや下痢(脱水状態)をしない。

体力の低下と、疲れをためない。

無理をしないで休養を取る。

調子が悪くなったら、我慢しないで医療機関に世話になる。

こんな心構えが高齢者を熱中症から守る基本でしょう。