人畜共通感染症の恐ろしさ(その1)

〜エボラ出血熱から鳥インフルエンザまで〜
(ペット、家畜、吸血昆虫からの感染症)

「人畜共通伝染病(Zoonosisズーノーシス)」と言う言葉は、前回、我が家の
ハクビシン騒動顛末のなかで使いました。

動物から人間へ感染する伝染性の病気の総称です。

犬、猫、小鳥などのペット、牛、豚、鶏などの家畜、ネズミ、サル、ハクビシン、蝙蝠等の野生動物、蚊、蚤、ダニなどの身近に生息する吸血昆虫などが持つ病原菌が宿主となって人間に感染し、深刻な病気を発生させることを「人畜共通感染症」とか「動物由来感染症」といいます。

ハクビシンも11年前中国で発生した恐ろしいSARS(重症急性呼吸器症候群)発症の中間宿主として、ウイルスを伝播(でんぱ)させた「動物由来感染症」の張本人として処置された過去があります。

ご承知のよう、地球上には私たちの目に見えない微生物や微小動物がたくさん存在し、その中には病原性を持ったウイルスや細菌、原虫、寄生虫などが、自分たちのコロニーを増やすため、適当な動物や植物に寄生し繁殖しています。

その病原体は機会があるごとに、繁殖条件の良い宿主動物に乗り換えることが生業で、最終的に恒温動物で免疫力の弱い人間に寄生することで大繁殖し暴れます。

その前の感染保菌宿主がペットだったり家畜だったり昆虫だったり人間の身近に存在、その動物を介してたやすく感染するのです。

いま世界で大問題になっている「エボラ出血熱」も蝙蝠のウイルスがサルに感染、宿主になったサルから何かの機会に人間に感染、そして人から人へと容易にウイルスが伝播し、完全な予防法と治療法がないまま、患者が増え死亡者が続出する所から、世界の保険機構を悩ましています。

まして、ウイルスの感染速度と拡大は、人間の移動の速さと行動範囲の大きさに比例します。

たとえば西アフリカで発生した「エボラ出血熱」にしても、アフリカはもとより欧米諸国からアジア、中東、中南米、オセアニアまで、人間の往来がある以上は感染の危険度はどの地域も同じです。

これと同じ潜在的に恐怖をもたらしている「人畜共通伝染病」のひとつが「鳥インフルエンザ」ではないでしょうか。

ご存知のよう、ここ数年前から世界の養鶏産業に多大な損害を与え、ことにアジア地区では、多くの人命が、このウイルス感染症で失われています。

10年前大問題になった「SARS」は終息し、ウイルスの影も見えませんが「鳥インフルエンザ」は現在でも、いろいろな形を変たウイルスとして残存、世界各地で鶏や水禽に被害をもたらしています。

ことに最近中国などで発生しているH7N9タイプのウイルスは、過去流行した強力なH5N1と異なり、鶏には顕著な症状が発生せず、いつの間にか人間に感染する忍者のようなウイルスで、もしこのウイルスが人に感染し、人型ウイルスに変わった時、人から人への感染が容易になり大発生となり、世界中をパンデミック(Pandemic)の恐怖に陥れるか分かりません。

ウイルスの発生原が鶏で、世界中には何百億羽と飼育されているだけに防ぎようがなく、さらに困ることは、渡り鳥はじめ各地方に常住している野鳥がウイルスの伝搬役割をするので、この病気の解決はますます困難です。

鶏の法定伝染病のひとつ、ウイルス病の「ニューカッスル」があります。

鶏にはインフルエンザと同じよう呼吸器障害で死亡率が高いですが、人間は呼吸器感染はなく目にウイルスが入ると結膜炎を引き起こします。

ウイルスの怖い伝染病のひとつに「HIV エイズ」があります。

この病原体もチンバンジーのウイルスが、人間に伝播したものと伝えられています。

この病気もアフリカの風土病的色彩が強かったものが、動物の生存地域まで開発という名のもとに人間が侵略し、容易にこのウイルスに感染、さらに人間交流の拡大により、世界的に感染を広めました。

ことにこの病気は、人間同士の生殖と生理的欲望の行為が、感染拡大と伝播の元凶ですから深刻です。

これらは代表的なウイルス病ですが、古典的なウイルス病に「狂犬病」があります。

この病気は犬と人間に同じような症状が発生、犬は狂い昏睡して死に、人間も神経症になり昏睡状態で死にます。

しかし日本では、飼育犬の狂犬病予防のワクチン摂取徹底で、この病気の心配はありませんが、開発途上国などへの旅行ではまだまだ注意が必要です。

そのほか蚊から伝染する「西ナイル熱」同じ蚊からの「日本脳炎(ポリオ)」1999年マレーシアで話題になった豚からの感染の「二パウイルス」は人間に脳炎を発生させます。

この夏、東京の代々木公園散策で発症した「デング熱」も蚊が媒介し、秋になっても蚊取り線香がよく売れて話題になりましたが、これは熱帯病のひとつで、赤道に近いところでの発症が常識でしたが、近年の温暖化により、亜熱帯以北の国々でも発生が多くなっています。

熱帯病で有名な蚊から伝播する病気に「マラリア」がありますが、これはウイルスでなく原虫病です。

原虫が血管に入り、赤血球を破壊し高熱に侵されますが、困ることにマラリア原虫は患者の中に定着し、媒介の宿主になることです。

このように人畜共通伝染病の中には、原虫や寄生虫などによる疾病もかなりあります。

家畜と関係の深い疾患に「トキソプラズマ」と「クリプトスポロジューム」があります。

この二つとも原虫によるもので、「トキソプラズマ」は妊婦に感染した場合、流産や胎児に先天的障害が起きますので危険です。

豚肉や牛肉の生肉からの感染が話題にされますが、猫なども中間宿主で糞の中にこの原虫のオーシスト(卵)が排泄され、その感染危険度は生肉より高いでしょう。

「クリプトスポロジューム」は5ミクロンくらいの極小の原虫で、ネズミなども宿主ですが、牛、鶏などの糞便を通じ土壌や飲水が汚染され、地域住民に下痢などの集団中毒を起こした事件が各国にあります。

現在でも日本の乳牛と肥育牛の畜産農場ではこの病気に悩まされています。

ことに鶏や牛などに感染するもう一つのコクシジュームという原虫病や、クロストリジューム菌などと合併し発病しますと、血便と下痢便発生で死亡事故も含め被害が大きくなります。

「クリプトスポロジューム」には特効薬がありません。

唯一この3種類の原虫と細菌を殺し治療できるのは、私どもが取り扱っている生菌剤と酵素で、ことに仔牛の斃死を防ぐ実績では世界一で、日本でも予防治療に使われます。

ちなみにこの生菌剤は安全で、人畜共通伝染病の代表、サルモネラ菌、大腸菌O157、カンピロバクターなどの食中毒菌にも効果があり、薬事法で薬剤が使えない鶏卵生産農場では、産卵期間中の病気対策に多く使われていますので、日本産の卵は生で食べても安心です。

さて寄生虫の感染に「エキノコックス」があります。

キタキツネが中間宿主で、それゆえ北海道に発病者が多くいます。

もとより犬にも寄生する条虫の仲間で肝臓障害を起こします。

有名な犬の病気「フィラリア」も原虫病で、蚊などによって伝播しますが、人間にも感染して下痢症状や胃腸炎を起こします。

「アニサキス」は淡水魚から感染する線虫の回虫症です。

魚類からの感染はほかに「肺吸虫症、肺ジストマ」「肝吸虫症、肝ジストマ」鮭や鱒から感染する条虫の「サナダ虫」など、動物以外の魚の生肉(刺身)からの感染も注意が必要です。

日本人は生ものが好きで、生卵から魚の刺身や魚卵、はては牛や豚の肝臓の刺身や鳥や鹿の生肉、スッポンや蛇の生血など、私も過去にこれらの食品を喜んで食べていました。

今でも生卵と魚の刺身は大好物ですが、いずれにしろ絶対安心はないと思います。

ことに動物の生肉と血液や内臓は危険度が高く、寄生虫、原虫の感染だけでなく細菌性の病気の感染はもっと深刻です。

ですから加熱しない生肉や血液は食べないことです。

今回はその危険度の高いウイルスの感染症と、吸血昆虫などの蚊と原虫、寄生虫の感染症を紹介しましたがまだすべてではないです。

また動物由来の病原菌には細菌、真菌(カビ)、リケッチア、プリオンタンパクの狂牛病など沢山ありますが、これらは後半に紹介しましょう。