世界の食肉、鶏卵はどう変わるか

〜家畜福祉のアニマルウェルフェアの流れ〜
(世界最大の畜産展示会VIV ASIAに出展して)
2015年の3月10日から14日まで、私はタイのバンコクに滞在しました。

2年ごとの開催される畜産と水産養殖の展示会「VIV ASIA」が開かれ、
私達も今回は3回目の出展、3日間多くの外国人と接し、忙しい毎日を過ごしました。

ご案内のよう世界的に経済が活発化し、食生活も変わり、
動物タンパクの需要が高まり、牛豚鶏肉や鶏卵など生産量もそれに伴い拡大、
そんな情勢が如実に現れた展示会で盛況でした。

ましてアジア全体の人口と家畜の頭羽数は、世界全体の60%以上、
それゆえ展示会への出展に期待をかける関連産業の意気込みもおのずから違います。

主催者の発表によりますと、出展者は874社、前回より178社増加しているようで、
この展示会の効果が評価されての出展が多くなっていると思われます。

その中で、世界最大の人口を抱え、経済発展著しく、家畜の飼養頭羽数が
世界一の中国からの出展者が最も多く140社、地元のタイが84社、
その他ヨーロッパからはオランダ、フランスが多く、
今回はアメリカと韓国が目に付き、残念なことに日本からの出展は少数です。

来場者は3万人を超え、出展者の担当を人数に加えると、
3万5千人以上の畜産関係者が集まったことになります。

来場者の顔ぶれも、開催地のタイは勿論多く、それに次いで西アジア、
中近東、アフリカからの見学者が目立ち、中国、韓国ベトナム、フィリピン、
マレーシア、インドネシアなどアジア系の国々を圧倒してました。

そのなかで日本人の姿がさびしいのは、日本の畜産が午後の産業となり、
伸長が止まっていることを表す一つの現象かもしれません。
さて今回、展示各社の意識の違いを、過去3回出展した私の目から見て、
大きな変化を感じたトレンドに二つ気が付きました。

一つは家畜を飼養する環境改善、
もう一つは疾病対策への抗生物質から代替物質への移行です。

ご存知のよう現在、家畜を飼育する環境は、
効率と利益率追及に焦点があてられており、
家畜動物が快適な過ごすには過酷と判断すせざるを得ない、飼育条件かもしれません。

また過酷な環境が生んだ疾病対策には、抗生物質乱用で対処し、
中には成長促進用の抗生物質漬けの飼育法が当たり前でした。

この家畜を飼育する環境を人間本位の発想でなく、動物の生理を考えに入れた
快適環境と、薬漬け疾病対策を変えようと言う意識が、
今回の展示会で強く感じたことです。

ことに家畜を飼育する施設は、動物の生理を考慮した環境を作り、
気持ちよく卵を産ませ、肉を生産し、
子孫を繁殖させようとする飼育法と施設のモデルが展示されていました。

言葉を変えて言えば「家畜福祉」「動物愛護」の意識が大きくクローズアップしたことです。

この気運と運動を「アニマルウェルフェア Animal welfare」として
世界共通の言葉にもなっています。

「アニマルウェルフェア」の定義は、動物を
1)飢餓と渇きから自由に開放
2)苦痛、傷害または疾病からの自由
3)恐怖および苦悩からの自由
4)物理的暑熱の不快からの自由
5)正常な行動ができる自由
となります。

卵を生産する鶏を例にとれば、現在の飼育環境はワイヤーケージ(金網の箱)の
中、1羽1羽区画され、1羽あたりA3の用紙一枚ぐらいの面積の中で、
自由が奪われ、自動で送られた餌を食べ水を飲み、前に傾斜した金網の上で産んだ卵は、
自動的に前に転がり、ベルトコンベアーで卵処理工場に運ばれ、
そこで10個づつ自動パックされます。

排泄した糞はベルトコンベアーで舎外に運ばれ、その糞は発酵され堆肥になります。

鶏舎内の明かりは、現在はLED照明で昼夜点灯され、
その光で餌を食べ水を飲み卵を産みます。

それゆえ鶏は太陽の光は生涯知りませんし、土の上を歩いたこともなく、
金網の上で一生を終えます。

空気は換気扇で送られ、鶏舎内の温度により空気量と風速はコンピューター管理されます。

このように自動化、機械化された鶏舎は、極端に人力を省力し、餌の量から
水の量、空気の容量まで合理化されています。

無駄のないコスト削減が最大の目的で、なおかつ人工的に鶏の生理に合う
ぎりぎりの環境と餌の量を計算し、最高の産卵を求める、これが近代養鶏法です。

そのおかげで「卵は物価の優等生」とも褒められてもいますし、
糞と隔離されまた土を踏まないので、病気感染のリスクは少なく、
卵の汚染ががなく衛生的で、密閉された鶏舎は野鳥や野ネズミの侵入危険も少ないので、
流行の鳥インフルエンザ対策にもなっています。

ただし誰が見ても、合理化という名のもとに人間本位で作られたもので、
鶏は自由に羽ばたくこともできず、福祉と愛護からは遠いところにあります。

さて、このアニマルウェルフェア運動の起こりはヨーロッパから1960年代に
始まり、いまやその普及率はEU全体に及び、各国は法制化されているところもあります。

理想の鶏飼育環境は、土の上と太陽の下で飼育し、
1羽最低1平方メートルの面積をもち、自由に行動できる環境を示唆しています。

ましてケージバタリーに1羽づつ閉じ込める飼育法は禁止で、
野外の太陽光の鶏舎でなくても、屋内人工光線鶏舎でも、
鶏が自由に行動できある一定の面積を持つ飼育環境なら許可されます。

旧来のケージバタリー飼育では立体式で、5層6層にケージを積み上げる鶏舎もあり、
土地の有効活用ができますが、平飼い方式では飼育羽数は少なく、
鶏舎1棟あたりの収容羽数も5分の1以下で最大では10%以下になりますが、鶏は快適です。

ただしすべての面でコストアップとなり、卵の価格は高くなるのは止むええません。

最近のニュースを例にとると、アメリカのカルフォルニア州は法律で、
ケージバタリー方式の鶏の飼育は禁止、またその卵の販売を禁止したため、
カルフォルニア州の卵は12個1ダース当り日本円で280円と高騰し、
カルフォルニア以外の卵価格は1ダース180円と100円の開きとなりました。

ただしこの高い価格でも、鶏にやさしい環境になればその価格を受け入れる住民が多いと聞きます。

このように動物福祉、アニマルウェルフェアに賛成する傾向を見ますと、
文化、教養、知識が進んだ国で、経済的にも政治的にも安定し、
さらに宗教的な考えも影響する欧米社会のようです。

このアニマルウェルフェアの波は当然日本にも波及し、農水省はじめ養鶏、
養豚の産業人の間で検討が行われています。

ただし日本の消費者の意識の中に、畜産動物の福祉的な環境整備に関心を持ち、
動物本位の飼育形態を作るべきとする消費者運動が起こりにくいのではないでしょうか。

一つには卵を除いて、牛肉豚肉鶏肉の多くが輸入肉で、輸入原価が安いことは、
輸出国でもアニマルウェルフェアで生産されてない肉ということになりますし、
まして消費者サイドから見れば安くておいしくて安心安全が担保されれば、
それで十分との考えがあります。

さらに効率と合理化経営などの緻密な飼養法の開発は、日本人の得意とするところで、
地価の高い日本で、一単位の面積でどれだけ高い生産量を産出するかが、
利益の分岐点にもなっていることです。

自動化、機械化、コンピューター管理の飼育法が価格の安い卵を作り、
糞との隔離は衛生的で生食をする日本人が安心できます。

そんなこんなで、世界先進国の潮流に迎合し、
為政者が法律で家畜の環境改善を制定しない限り、
日本ではアニマルウェルフェアは生産段階からは起こりにくいでしょう。

ただし、薬漬けの疾病対策にはおおくの消費者は大賛成でしょう。

化学薬品メーカーはおおむね大企業、政治的なパワーも強く、
畜産国のアメリカでも薬規制の行政指導がやりにくい傾向でしたが、
消費者サイドの要望が残留薬品を嫌い、ことの抗生物質離れの流れが出来つつあります。

このトレンドがはっきり表れたのが今回のVIVアジア展示会でした。

この流れについては次回にお送りします。